- 2026.01.26
ベトナムでITエンジニアと雇用契約を結ぶ際の基本と注意点
- 労務・法務

ベトナムでITエンジニアを採用する企業が増えている中、現地の労働法に準拠した適切な雇用契約の締結は、企業運営の根幹となる重要な要素です。日本の労働環境とは異なる点が多く、契約書の不備や認識の違いは、後々トラブルの原因となりかねません。
特にIT業界では人材の流動性が高く、優秀なエンジニアを確保し続けるためには、明確かつ公正な契約関係の構築が不可欠です。今回は、ベトナムで雇用契約を結ぶ際に抑えておきたい基本項目と実務上の注意点を詳しく解説します。
今回は、契約時に押さえておきたい基本項目と注意点を解説します。
雇用契約の基本構成

ベトナムの雇用契約(Labor Contract)は、書面で締結することが原則とされています。口頭での合意だけでは法的効力が弱く、後のトラブル時に証拠として機能しません。
雇用契約には主に以下の項目を明記する必要があります。
- 雇用形態(無期・有期など)
- 業務内容
- 勤務地
- 労働時間
- 休暇
- 給与・支払い方法・支払日
- 社会保険・健康保険の加入
- 契約の終了条件(退職・解雇)
- 守秘義務
契約書の言語についても注意が必要です。ベトナム語が法的に正式な言語であり、日本語や英語で併記する場合でも、法的にはベトナム語版が優先されます。
そのため翻訳の正確性をしっかり確認し、日本語版とベトナム語版で内容がずれないよう、専門家にチェックしてもらうことをお勧めします。
契約期間の種類

ベトナムでは契約期間に応じて以下のように区分されます。
有期契約(最大36ヶ月)
最大36か月までの期間を定めた契約です。
IT業界では、プロジェクトベースや特定の開発期間に合わせて、契約を結ぶケースが多くみられます。契約期間満了時には、更新の意志を明確にする必要があります。
無期契約(3回目の更新後は原則無期)
期間を定めない契約形態です。ベトナム労働法では、同一の従業員と2回の有期契約を結んだ後、3回目の契約は自動的に無期契約とみなされる規定があります。安心した雇用を求める優秀なエンジニアにとっては、無期契約は魅力的な条件になります。
短期契約(試用期間)
12か月未満の短期プロジェクトや季節的な業務に対して結ぶ契約です。
ただし、IT業界では一般的ではありません。
実務上、初回契約では6か月から1年の有期契約+試用期間(最長2か月)の組み合わせが最も一般的です。これにより、企業側は従業員の適正を見極める時間を持ち、従業員側も職場環境を確認できます。
試用期間の設定
試用期間は、労働法で明確に規定されており、職位によって上限が異なります。
- 管理職・専門職(エンジニアなど):最長60日
- 一般職:最長30日
- 単純労働:最長6日
試用期間中の条件については、別途試用契約書が必要になります。
試用期間中の給与
法律上は本給の85%以上と定められていますが、IT業界の慣行では90%から100%を支払うケースが主流です。優秀なエンジニアを確保するためには、試用期間でも本給の100%を支払うことが競争力につながります。
評価基準の明確化
試用期間終了時の評価基準(技術力、コミュニケーション能力、チーム適応性など)を契約時に明示することで、双方の認識齟齬を防ぎます。
試用期間の解除
試用期間中は、双方が比較的容易に契約を解除できますが、3日前の事前通知が必要です。
社会保険制度への加入義務

ベトナムでは、1か月以上勤務する従業員に対し、以下の保険への加入が法律で義務付けられています。
- 1. 社会保険(BHXH – Bảo hiểm xã hội): 年金、出産、労災などをカバー
- 2. 健康保険(BHYT – Bảo hiểm y tế): 医療費の補助
- 3. 失業保険(BHTN – Bảo hiểm thất nghiệp): 失業時の給付
上記を合わせて企業負担分は給与の約21.5%となります。従業員負担率は約10.5%となります。
この負担は決して軽くないため、採用計画を立てる際には人件費の一部として必ず考慮する必要があります。
保険料の計算基礎となる給与には、基本給だけでなく、定期的に支払われる手当も含まれる点に注意してください。ただし、残業代や一時金は含まれません。保険加入手続きは、雇用開始から30日以内に完了させる必要があります。
労働時間と残業の規定

ベトナムの労働法では、通常の労働時間は1日8時間、週48時間以内と定められています。IT企業では週5日勤務が一般的ですが、土曜日を半日勤務とする企業も存在します。 産業手当の計算は法律で厳格に定められており、違反すると罰則の対象となります。
- 平日の時間外労働:通常賃金の150%以上
- 週末(休日)の労働:通常賃金の200%以上
- 祝日・年次有給休暇の労働:300%以上
さらに、月間の残業時間は40時間まで、年間では200時間まで(特例除く)という上限があります。IT業界では納期前に残業が集中しがちですが、これらの法定上限を超えないよう、プロジェクト管理と人員配置に注意が必要です。
休暇制度

ベトナムの従業員は、以下の休暇を取得する権利があります。
年次有給休暇
勤続年数に応じて年間12日以上。5年ごとに1日追加されます。
祝日
ベトナムには法廷祝日が年間10日あり、特にテト(旧正月)は、通常5~7日間(あるいはそれ以上)となります。
病欠
医師の診断書があれば取得可能で、社会保険から給付されます。
特別休暇
結婚、近親者の不幸など、理由に応じて有給休暇が認められます。
契約終了と退職手続き

雇用契約の終了には、主に以下のパターンがあります。
合意解約
双方の合意により契約を終了します。最も円満な形です。
自己都合退職
従業員からの申し出による退職。無期契約の場合は45日前、有期契約は30日前の予告が必要です。
解雇
企業側からの一方的な契約解除。重大な違反行為がない限り、解雇は困難で、退職金の支払いや法的手続きが必要です。
退職時には、退職金の支払いが必要になる場合があります。
計算式は「勤続年数×月給の半分」が基本ですが、自己都合退職や解雇理由によって変わります。
文化面での配慮事項

契約書の内容や法的要件を満たすだけでなく、ベトナムのビジネス文化を理解することも重要です。
信頼関係の重視
ベトナムでは、契約は法的な文書であると同時に、信頼関係の象徴でもあります。契約内容を一方的に変更したり、口約束を守らなかったりすることは、深刻な不信感を生みます。
丁寧な説明
契約締結時には、各条項について丁寧に説明し、従業員が理解・納得した上で署名してもらうことが、後のトラブル防止につながります。
柔軟性と公平性
ベトナムの従業員は、硬直的なルールよりも、状況に応じた柔軟な対応を評価する傾向があります。ただし、その柔軟性は公平性と一貫性を持って適用されるべきです。
文化面での注意
契約書の内容だけでなく、「契約=信頼関係の基盤」と捉える意識も大切です。
不明確な条件、口約束、後出しの条件変更は、すぐに不信につながります。
まとめ

ベトナムでのITエンジニア採用における雇用契約は、日本とは異なる法体系と文化的背景を持っています。
法令遵守、明確な条件提示、誠実な対応という3つの基本原則を守りながら、現地の実情に合わせた契約書を作成することが成功の鍵です。
日本の常識や慣習をそのまま持ち込むのではなく、ベトナムの労働法を正しく理解し、現地の優秀な人材と長期的な信頼関係を築くための基盤として適切な雇用契約を結びましょう。必要に応じて、現地の法律事務所や人事コンサルタントの助言を得ることも、リスク管理の観点から有効です。
ぜひこちらもご参照ください。(パーソル研究所-ベトナム|労働法令・労働市場を知るhttps://rc.persol-group.co.jp/thinktank/spe/hr-data/jp/about-labor/vietnam/)
投稿者プロフィール

- ITマネージャー
- ベトナム在住7年目のITマネージャー。IT事業の管理をしながら、現地スタッフのマネジメントや営業にも関わっています。海外で働くリアルな日常、異文化の中での気づき、失敗から学んだことなどを、ゆるく分かりやすく発信中。趣味はカフェ巡り、食べ歩き、読書、ウォーキング。
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